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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第26回 残暑に読むとさらに暑い“毛”の話。

 猫に限らず、犬だって人だって、生き物と暮らしていると無縁でいられないのが病気だ。子どもが病気に罹ると親はあたふたするものだが、言葉を持たない動物はなおさら。毎日よく観察していないとあっという間に症状が進んでしまうこともある。

 と書いておきながら、多くの猫が罹る皮膚炎の一種で、主に下顎にできる挫創(ざそう、猫ニキビ)がモックにできていることに私は気づかなかった。言い訳すると、挫創の初期症状は、下顎の皮膚に黒い点々が現れるのだが、2年前に亡くなったシャンコ、いたずら盛りのアンドレは被毛が白いので、黒い点々ができるととても目立つ。ところが、モックは黒猫。黒い毛にまみれて見えなかったのだ。


 挫創の原因はいまだにわかっていないようだが、アレルギーやホルモンバランスの乱れ、ストレス。食べ物カスなどが付いたままなのも原因の一つと言われている。経験的には暑い季節に多い気がするが、シャンコも何度か罹っていたし、アンドレも1~2度やっていたので、清潔にしておけば重症化することはないだろうと思っていた。

 動物病院に行く時間も取れない。様子を見ているうち、モックの患部はあっという間に広がり、点々から一円玉大の面に。かゆみを伴うのかバリバリかきむしった結果、毛は抜け落ちて皮膚が露出。ジュクジュクして、重症化一歩手前という痛々しい状態になってしまった。

 その頃から日に日に気温が上昇。猫は、肉球にわずかな汗腺を持つのみで体にはなく、鼻先で温度変化を感じると肺から空気を放出して調節する、体を舐めて気化させるという、暑さに対しては脆弱と言わざるを得ない仕組みしか持ち合わせていない。
 我が家でもアンドレとモックのために、エアコンはもちろん、扇風機をつけっぱなしにする、動物用の涼感グッズを多用するなど、毎年の暑さ対策には苦慮してきた。
 折しもテレビに映る気象予報士が「明日は体温を超える地域もあるでしょう」と告げていた。

 汗が出ないのにも関わらず、患部付近は体液でじっとり。見ているだけでもこちらは冷汗がじっとり。暑さのせいでさらに悪化でもしたら大変だと、慌てて動物病院に電話。「連れて行っても暴れるだけだと思うので、写真でも良いですか」と断り、スマホに収めた患部の画像と共に来院した。


 獣医さんは「写真だけでは断定はできない」としつつも、猫の下顎には、飼い主や他の猫にこすりつけて自分の匂いを移し、仲間と認識する物質を出す分泌腺があり、そこが何らかの理由でふさがったりすると炎症を起こしやすいと説明してくれた。

「こういうジュクジュクした状態になっていたら、本当は顎の毛をバリカンで刈って、きれいに洗って薬を塗るのが良いのですが、連れてこられない以上それは難しいですね。ご自宅で毛を剃って、薬を塗ることできますか?」と言われる。毛を剃るなんて、とてもできそうもないと告げると、「短く切るだけでも良いから、とにかく皮膚に直接薬を塗り込むようにしてください」と、感染症予防の飲み薬も出してくれた。

 動物病院帰りは、診断がついてもつかなくても、薬がうまく塗布できるか、ちゃんと服薬させられるかを考えるといつも気が重い。代わりに財布は軽くなるが……。ともかくその日も、暑さと一日の疲れも相まってどんよりした気分で自宅に戻ると、モックのところに直行した。

 親バカかもしれないが、モックは非常に頭が良いので言葉のいくつかを理解する。ちなみに、名前を呼びながら「にゃーんは?」と言うと、70%の確率で「にゃーん」と返事をするし、ドライフードを意味する「カリカリ食べる?」と聞くと、目を輝かせてシードフィーダーの前に走り込む。私が「こっちおいで」と手招きすると必ずやって来る。朝起きて「おはよう」と話しかけると枕元にやって来る。

 そんな感じなので「顎を見せて」というと頭をひねって上を向き、患部を見せてくれた。幸か不幸かすでに毛はむしり取られてほぼない状態。しっかりと軟膏を塗り込む。

 はじめは粘り気のある軟膏を塗られることを嫌がって、自分ではどうしようもないからかアンドレに舐め取らせたり、クッションにこすりつけたりというクレバーぶりを発揮していたが、薬でかゆみが引くことがわかったのか、次第に協力的に。抗生物質も大好きなおやつに混ぜて与えたおかげで、一進一退を繰り返しながらも3週間ほどでほぼ完治した。毛はまだ抜けたままだが……。


 獣医さんによると、前述のように猫は暑さに弱いので(かといって寒さにも強いわけでもないらしいが)、温度もだが湿度も高くなりすぎないように気を配ってやる方が皮膚の衛生的にも良いとのこと。挫創は繰り返すことも多いので、新陳代謝を促す意味からも、アルコール成分が添加されていないウエットティッシュなどで身体全体を拭くと良いとのアドバイスも受けた。

 室内温度が28度を超える日はエアコンをつけた方が良いが、多頭飼いなら各猫の好みがあるので、温度高めのエリアも用意しておくべきだとも言われた。そこで、仕事場とリビング間の扉を開け放し、仕事場のエアコンだけを27~28度設定で付けると、エアコンを切っているリビングは29~30度になる。仕事が終わったら、リビングのエアコンをつけて仕事場を消す。温度帯が異なる2部屋を作ることを思いついた。
 取材に出る際も、高温が予想される日は仕事場のエアコンはつけっぱなし。私が汗水たらし、灼熱地獄の世間を動き回っている時、涼しい室内でまどろむアンドレとモック、夏休み中の息子も時々加わることを思うと複雑な気持ちになるが、帰宅した時、自宅がほど良く冷えているのはメリットだと思えば良し。

 電気代が気にならないわけではないが、遮熱効果が高いレースカーテンを架けていること、建物のコンクリート壁が厚いこともあり、電力会社のサイトから毎日使用電気量をチェックしているが、今のところ驚くような高額にはなっていない。

 観察していると、最近少々太り気味のアンドレは、基本的に温度が低い方の部屋に、元々少食でスレンダーなモックは温度が高めの部屋にいることがわかった。それでも、時々は入れ替わって、涼を取る、または暖を取り、元の位置に戻っていく。部屋を移動するまでもないレベルの場合は、お腹を見せて放熱する、または体を丸めて蓄熱する。
 同じ部屋内でも温度が高めの場所、あるいは低めの場所を探しての移動もこまめにしている。汗をかくという温度調節機能を備えていない替わりに知恵を働かせる本能が備わっているのだと思うと、愛おしさがさらに増す。


 ちなみに、獣医さんによると、室内飼いが推奨されている最近の猫は、日光を直接浴びることが少ないため、夏前に抜け、冬前に生える被毛サイクルが狂ってしまい、年中抜ける、または変な時期に抜ける、逆に抜けないような子もいるのだとか。冬毛のまま夏を迎えるなんて、想像するだけでも辛い。とはいえ、ベランダで日光浴させるわけにもいかない。
 メリットしかないと思っていた室内飼いにもデメリットがあることを知った。抜けても抜けなくても、動物と暮らす者にとって、気温と毛にまつわる悩みは尽きない。

ひんやりするのか、木のテーブルで寝るのが夏はお気に入り。
ひんやりするのか、木のテーブルで寝るのが夏はお気に入り。

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