SUMUFUMU LAB 住ムフムラボ

COLUMN コラム

各界の人気コラムニストが豊かに生きるコツを伝授します

いきかたのカタチ

街的わが家〜アート・音楽・グルメ

江 弘毅

江 弘毅(編集者)
住まいと街の健全な「交通」が行われてこそ人がハッピーになる、
という街的生活者の住生活充実コラム。今日も「ごきげんなネタ」てんこ盛りで。

いきかたのカタチ

街的わが家〜アート・音楽・グルメ

第15回 喫茶店の役割

 街に喫茶店が少なくなってきた。代わりに増えてきているのが、セルフ系のチェーン店のカフェだ。
 これはスマホが普及したこと、つまりインターネットとモバイルがつながったことが大いに影響しているんじゃないか。ドトールやスタバで一人でカウンターやソファに腰掛けて、みんながスマホやノートパソコンに向かっている姿を見ると、確実にそうだと思う。
「ひとりぼっち」の「みんな」がネットでつながっている。

「家」でもなく「仕事場」でもない第三の場所。その代表的な空間が喫茶店だ。
 街場の喫茶店は、その街自体の親密圏だ。いつものマスターやおかみさんがカウンターの中にいて、ご近所さんや常連客が世間話をしている。



大阪・本町にある[平岡珈琲店]のマスター、小川清さん。大正10年(1921)創業なので、3年後には100周年を迎える


 オフィス街なら仕事前のサラリーマンたちがモーニングを食べたり、昼時のランチ後にひと息つきに来たりしている。
 オーディオからジャズやクラシックが流れていて、おいしいコーヒー片手に音楽を聞いていたり、あるいは棚に並べてある週刊誌や雑誌やスポーツ新聞を自分の席に持っていって読んだりしている。定期購読する代わりに、その喫茶店に通うということもアリだ。



[平岡珈琲店]の名物は深煎りの豆で淹れるコーヒーと、それと絶妙に合う揚げたてのドーナツだ


 逆に喫茶店は同じ空間で「知らない人」とはコミュニケーションしなくてよい場所だ。お互い近いところにいて、その店舗や空間を共有している人同士は、むやみに話しかけたりしない「儀礼的無関心」を心がけている。
 電車内も病院やカットハウスの待合室もそうなのだが、そういう空間では、一人考え事をしたり逆にぼっとしていたり、また好きな本を読んだり、イヤホンで音楽を聞いたりする。もちろん居眠りしても良い。


大阪・黒門市場の老舗[伊吹珈琲店]。外国人食べ歩き客でごった返すアーケードにあるのに、ここは変わらない時間が流れる

 が、その第三の空間にモバイルが入ってきた。
 喫茶店や電車内のケータイ通話はまだ×というルールが強い。これは共有している空間、すなわちお互いの「いま/ここ」と違うところにいる人、つまり「見えない人」とつながりコミュニケーションすること。その声が他の人にとっては耳障りなのだ。
 オフィスやマンションのエレベーターに乗り合わせると、顔見知りには挨拶をしたりするだろうが、ケータイ電話は「マナー」として控える。

 が、メールやネットは音声のリアルな会話ではない。
 ケータイのメールやネット上のFacebookやラインのコミュニケーションはテレポートされる。リアルなコミュニケーションで、相手との時間をシンクロさせることも要らない。

 だからこそ「仕事場でも家でもない」第三の空間は、「いま/ここ」ではないところの人とつながるための空間になってしまった。

 メールやSNSの書き込みやレスが気になって街にあまたあるセルフ系のカフェに入る。一種のネット依存というか「つながらないことの恐怖症」に陥っている。

 電車に乗るやいなやスマホを開く、JRの駅のホームでは「歩きながらのスマホは電車に接触する危険性が高いのでやめてください」とアナウンスしている。自転車をこぎながらスマホをしていてお年寄りにぶつかって死亡事故を起こしたニュースも記憶に新しい。
 
 何かおかしい。
 パソコンもそうだがスマホやケータイの機種変更をしたりして、なかなかつながらないときにすごいストレスを感じたり、Wi-Fiの調子がおかしくなったりすると不機嫌になってしまったりする。これはおかしいと言うより変だ。
 
 街場の喫茶店でマスターや常連客と四方山話をしたり、あるいは初めて入った喫茶店で地元客の気配を感じながらその街自体の空気に触れる。



[伊吹珈琲店]は黒門市場ではたらく人や仕入れに来た人、ビジネスマン、観光客など客層も多様で、スタッフも接客が手慣れている


 どこの街に行っても同じインテリア同じ商品のセルフ・カフェ。店員さんとは顔は合わすのだけど、具体的な知り合いになったりしないコミュニケーション。

 街場の喫茶店は仕事や家庭や「そういうこと」から一時、離れるためにある。
 そういうふうにして街場の喫茶店に行けば居心地がよい。



仕事中であれ散歩のときであれ、喫茶店の看板を見つけるとうれしくなる

バックナンバー

私たちのくらしにとって大切な「かぞくのカタチ」「いごこちのカタチ」「いきかたのカタチ」。
この3つのカタチを通じて、自分らしい、より豊かなくらしについて、いっしょに考えてみませんか。

いきかたのカタチ

江 弘毅
編集者

1958年岸和田生まれの岸和田育ち。神戸大学農学部園芸農学科卒。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『Meets Regional』の創刊に関わり、12年間編集長に。2006年4月より編集集団140B取締役編集責任者。著書に『岸和田だんじり祭 だんじり若頭日記』(晶文社)、『「街的」ということ』(講談社現代新書)、『ミーツへの道』(本の雑誌社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)、『有次と庖丁』(新潮社)など。毎日新聞夕刊に「濃い味、うす味、街のあじ。」(毎月第4火曜)を連載。

バックナンバー

江 弘毅氏のイベント

かぞくのカタチ
いごこちのカタチ
いきかたのカタチ

バックナンバー一覧