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かぞくのカタチ

わが家のいとしい残像

平野 愛

平野 愛(写真家)
その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。
身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

かぞくのカタチ

わが家のいとしい残像

第14回 公園に行こうか

 ゆっくりとした桜の開花がニュースになる穏やかな春。いいですね。だけど、あの青く輝くお花見シートのガヤガヤには、ついついひとこと言いたくなってしまう。そこは20代のころからずっと変わらない春。

「そろそろ公園行こか」と、夫と子どもは靱公園に向かった。今日はご近所さんと一緒にささやかに花見。二人は自転車にキャンプ用シートと小さなテーブルを積んで出かけていった。私は、というと、とても厄介なヤツが先週突然やってきたため、ひとり自宅に留まらざる得なかったのだ。
 それは、肺炎だった。人生で3度目になる。

 肺炎はこの日までにほぼ回復していて、念のための自宅待機だった。ソファでぼんやりする私に、夫たちの様子がピロンピロンと次々とスマホに送られてくる。お酒はナシで、珈琲だけのささやかなお花見だ。「“昼から組”と“夕方組”とが今まさに入れ替わり中!」なんていう実況中継も届く。あぁ、いいな、ゆるやか。わたしも行きたかった。肺炎め。
 スマホを眺めながら、いつしか過去の肺炎のことを思い返していた。

 過去に2度、この7年間に都合3回。ほぼビエンナーレ、トリエンナーレ的な間隔で肺炎を患っている。そう考えると、自分のことながらおののく。撮影が立て込んでいたり、イベント、家のこと、こどものこと。身も心もザワつく年度末は、いつも注意深く臨んできたのだが、今年はどうも無理をしてしまったようだ。とはいえ、今回は早めに肺炎を疑って対処できたせいか、ひどくならずに済んだ。

 肺炎が厄介なのは、(私の場合だが)昼は熱が下がって、夜になるとぶり返してくること。昼のあまりの穏やかさに「もう治ったかな? なんか疲れでも出たかな」と油断しているうちに、ある日、ドカンと高熱の波がやってくる。かつては、そのことをよく知らないままずるずると我慢してしまい、二度入院するまでに状況を悪化させてしまった。

 最初の肺炎は2010年のことだった。2度目は2011年の春。産後の体力低下もあってか、いくつかの肺炎を併発して長期の入院だった。子どもはまだ1歳と半分にもならない頃。あまりにも過酷だったせいか、当時の記憶があまりない。治療のために強い薬を飲み続けたこともあり、すぐに本調子とならず回復したと言いきれるまでに、退院してから2年ほどかかったように思う。

 その当時の写真を見返してみると、公園の写真が意外と多い。それもわたしが写っている写真。おそらく、自分が撮るというよりは、自分の姿が見たい、自分がそこにいることを確かめたいという気持ちだったと思う。そうか、誰も口に出しては言わなかったけど「公園に行く」ことが、我が家の一番の目標になっていたんだな。 
 そういえば、ベランダから見えるすぐそこの公園がとても遠かった。

2010年最初の入退院の後、靱公園にて。中央に歩いているのがわたしたち親子。1歳半。歩き出してまだ数カ月。わたしに見せようとしているのか、得意そうに一生懸命歩いていた

 公園。よく考えてみれば、病気になった私だけではなく、多くの親が最初に目指す場所。晴れがましさ、煩わしさ、不安……いろんな思いをごっちゃに抱えながら新米たちが踏み出していく舞台。わたしの場合は、ベビーカーに乗せて公園を一周、そしてピクニックシートをひいてそこにゴロンと寝転がせてみた日がはじまりだった。
 それからは、その場その場で出会う人には気を遣ったり、気を遣われたり、無神経な犬の飼い主にはムッとしたり。井戸端会議が白熱してしまったり。砂場や水辺ではどろどろだったり、べとべとだったり、どぼどぼだったり。そんな思い出せないぐらいの小さな小さな記憶が、降り積もっていく。わたしにとっては、バランスを崩した身体をすこしずつ立て直してきたその足取りも、そこに重なって見える。

「公園デビュー」という言葉があるけれど、子どもにとっても、親抜きで「デビュー」する最初の場所なのかもしれない。友だちと遊んだり、待ち合わせしたり、語り合ったりと、少しずつ独立していく場所。子どもたちと公園の付き合いは、まだまだ続く。

 今はもう、どの公園に行っても、穏やかな気持ちで子どもが走り回る様子を眺めていられるようになった。
 でも、親として子どもと連れ立っていくところではなくなる、そんな日が迫ってきている。
 あと何回、一緒に公園に行けるのだろうか。

 ピロンピロンとスマホに送られてきた桜の写真。まだまだ三分咲きぐらいか。今年は満開までにはもう少しかかりそうだ。

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かぞくのカタチ

平野 愛
写真家

1978年京都生まれ京都育ち。写真家。17歳よりフィルムカメラと過ごす。『東京R不動産』(アスペクト)の撮影をきっかけに、雑誌『キョースマ!』(淡交社)で住まいの写真を多数手がけるほか、4年にわたり神戸女学院大学の大学案内を撮影。近年は雑誌『Number』でスポーツ選手のポートレイト撮影をはじめ、ウェブマガジン『OURS. KARIGURASHI MAGAZINE』、書籍『#カリグラシ 賃貸と団地、貸し借りのニュー哲学』など住まいにまつわる編集も。大阪在住。ウェブディレクターの夫と息子との3人暮らし。

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