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COLUMN コラム

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いごごちのカタチ

わが家のいとしい残像

平野 愛

平野 愛(写真家)
その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。
身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

いごごちのカタチ

わが家のいとしい残像

第16回 事務所の完成、それからそれから

 今年の秋はじわっと来るタイプ。来てるの秋? と聞いてみたくなる。まだ半袖で動いては、時折失敗してブルっとしている今日この頃。夏は果物がちょっと不作だったのか、「シャインマスカット」は昨年ほどの盛り上がりは見せなかったわが家だったけれど、ベランダの「クワガタ」は長生きしているし、なにより移転先の事務所が無事に仕上がり、平穏な日々が帰ってきた。

 前回のコラムでは旧事務所から新事務所に移転するにあたり、引っ越し荷物の中継地点(仮置き場)として自宅マンションの玄関土間をフルに活用し、仮オフィスとしてダイニングを目一杯使っている様子をドキュメントした。
 中継なしに、旧から新へとひとっ飛びできたらよかったものの、なるべく新事務所を自分たちの手で改装するというミッションと契約の都合のもと、こうするほかなかった。

 こどもはどうだっただろう。「ただいま~」と帰ると足の踏み場もないギリギリまで什器がそびえている玄関から廊下を抜けて、TV見たりおもちゃで遊んだりゴロゴロしたいけれど、後ろではカチカチパソコン作業する両親とスタッフがいる状況……。あれれ、いま思い返してみると、什器の山を楽しそうにくぐっていたし、自由気ままにTVを見て、おもちゃを散らかして、ソファの上でしっかりゴロゴロしていたぞ。

 スタッフはどうだっただろう。「おはようございます~」と出勤してくる先は会社の人の自宅。トイレひとつ、手を洗うのひとつ、緊張する状況……。あれれ、いま思い返してみると、カチカチとパソコンして、お昼は近くの500円の弁当を食卓でみなで食べ、こどもが帰ってきたら遊びの相手をし、そのまま作業が夜まで続いて、「それじゃ夜ごはん食べていく?」と聞くと「はい!」と、結局夜ごはんもみんなで食卓を囲んで、“合宿みたい”、“実家みたい”と盛り上がりながらなんだか楽しそうに過ごしていたように見えたぞ。

 なんだなんだ。みんなそれなりにうまくやっていたんだなぁ。もしかしたらわたしだけが、みなの快適性とか居心地を考えすぎて、落ち着かなかったのではないか。

半月の改装作業の最後は、床のワックスがけ風景。ふざけながら丁寧に

 その後、ご近所さん総出の協力を得て、天井は約27cm高くし、汚れていたクロスは剥がして全面ペンキを塗った。見違えるように明るくなったし、小さいスペースながらもちょっと大きくなった。いよいよ荷物も運びこめ、わが家のごたつきは安堵感とともに終わった。

初めて運び込んだものはダイニングで活躍していたデスクだった

自立する壁を制作途中の風景。スタッフは経理処理をしている。学校帰りのこどもは、自宅のソファの上と同じスタイルでゴロゴロくつろぐ。キャンプシートを引いて、お気に入りのおもちゃを運び込んでいる


 ごたつきは終わった、と思いきや、それは甘かったか。上の写真の通り、進まない。
 仕事の合間に隙を見つけては、ゆっくりゆっくり必要なものを自力で運び込んでいき、ゆっくりゆっくり壁を作ったり棚を作ったりする。これでは自宅のごたつきが、結局は新事務所に移っただけに過ぎなかったのではないか。

 みんなは、どうだろう。
 またしてもスタッフもこどもも、なんだか朗らか。のんびりしたもので、すでにずっとそこにいたかのように、場にも馴染み出しているのだった。そんなふうに、約4ヶ月の移転プロジェクトは、いつの間にか一区切りとなりつつある。

ガラスドアの外から見えた、ある日の学校帰りの風景。わたしの帰りを事務所で待つこども。宿題を見てくれているスタッフ。右手に出来上がった壁が

 でも、やっぱり、このことをこうしてコラムに書こうと思い立ちながらも、植物の場所を移動したり、本を整理したり、配線を処理したりしてしまっているわたし。こうしたほうが居心地がいいのではないかとか、便利なんじゃないかとか、考え出して動き出してなかなか書けない。

 またしても、まだまだ落ち着かない。それもまた、わたしだけ。
 ああ、早く馴染みたい。

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いごごちのカタチ

平野 愛
写真家

1978年京都生まれ京都育ち。写真家。17歳よりフィルムカメラと過ごす。『東京R不動産』(アスペクト)の撮影をきっかけに、雑誌『キョースマ!』(淡交社)で住まいの写真を多数手がけるほか、4年にわたり神戸女学院大学の大学案内を撮影。近年は雑誌『Number』でスポーツ選手のポートレイト撮影をはじめ、ウェブマガジン『OURS. KARIGURASHI MAGAZINE』、書籍『#カリグラシ 賃貸と団地、貸し借りのニュー哲学』など住まいにまつわる編集も。大阪在住。ウェブディレクターの夫と息子との3人暮らし。

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