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江 弘毅

江 弘毅/編集者

住まいと街の健全な「交通」が行われてこそ人がハッピーになる、 という街的生活者の住生活充実コラム。今日も「ごきげんなネタ」てんこ盛りで。

最終回 コロナと街の店

 毎日新聞の夕刊に、毎月1回の連載「濃い味、うす味、街のあじ。」という、タイトルからして街ネタのコラムを書いている。

 4月初旬に「緊急事態宣言」が出て、街に出ることの自粛と「三密」を避けることが要請された。
 これで街の飲食店からガタッと客足が遠のき、街自体の様子ががらりと変わった。

 夏に入ってもコロナ禍はまだまだ深刻で、8月には大阪のミナミの中心地の飲食店の営業時間短縮が、大阪市、大阪府から要請された。

 わたしは仕事柄、京阪神の料理屋や酒場といった飲食店の経営者や料理人に知人が多いのだが、やむなく長期休業に入る店や著しく営業時間を短縮する店、なかには「再開しないらしい」という残念なニュースも耳にした。

 そんななかそれまではいつもいっぱいだった大阪ミナミを代表する老舗の居酒屋が閉店したり、串カツ屋では「二度付けお断りが」なくなったりした記事の取材をしたり書いたりしていたが、この新聞連載の4月からはそれまで書いていた店や街のことから、ネットのグルメ情報やSNSのテイクアウト情報の盛り上がりなど、ちょっとそれまでの趣旨から離れた内容になって、秋になった今も現在進行中である。

 すごく反響があったのは、「関西のソース」を使った「ソース焼きそば」のSNSでのネタだ。
「関西のソース」を使った「ソース焼きそば」

 家で今日は何を食べたかを連投していたライターが、「こんな焼きそばを家でつくりました。決め手は地元の“地ソース”です」という書き込みをした。
「こんな焼きそばを家でつくりました。決め手は地元の“地ソース”です」

 レシピを披露するのだが、「鉄板で焼かれて酸味がほどよく丸くなったウスターソースが味の決め手だ」とフライパンで調理しているシーンの写真を添付する。ソースがこげて良い匂いがしてそうだ。
 決め手のソースについては、「神戸・長田の地ソースである『ばらソース』」の写真も入れた。
「神戸・長田の地ソースである『ばらソース』」

 すると尼崎のまちづくり系タウン誌のライターが、「ワンダフルソース」という尼崎の地ソースがあることに加え、杭瀬の市場の製麺店では、豚バラ、キャベツ、天かす、ちくわや紅ショウガまで入った250円の焼きそばセットを売り出している。湯を加えてつくるカップ入り即席焼きそばにあと50円出すだけで、段違いにうまい尼崎のお好み焼き屋の焼きそばが出来る、「焼きそば愛です」などとコメントを入れたものだから盛り上がる。
杭瀬の市場の製麺店では、豚バラ、キャベツ、天かす、ちくわや紅ショウガまで入った250円の焼きそばセットを売り出している

 次いで、英国に住んでいる京都の作家が、ロンドンで「ステイホーム」中につくった焼きそばのことを書いて絡んでくる。
「ロックダウン」の英国では豚バラが入手難でなんとか手に入れた。
「ソースは京都から持ち込んでます。あ、英国産のウスターもあるんで6種類だ。4種類はツバメ、オジカ、パパヤ、ヒロタです」
 と、さすがにプロが書くコメントはおもろい。

 そんななか「中濃ソース」が幅を利かせる関東では、関西の「ウスター系ソース」を知らない人が多い。
 そのスレッドにウスターソースのことを「中濃の薄いやつっていうイメージ」と東京の編集者がつぶやいたものだから、「バラソース」の神戸のライター氏はブチ切れる。

 関西では中濃系の「とんかつソース」「お好み焼きソース」と「ウスターソース」等々が、きちっと分けられていること。
 ちなみにわが家では、とんかつ=オリバー、お好み焼き=ブラザー、焼きそば=ばら、ウスター=ばら(以上、神戸)。串かつ=ヘルメス(大阪)の「串かつ屋さんのソース」といったふうに、用途にわけて揃えているのだ。加えてばらのドロソースは一升瓶を人からもらったので、小さな容器に詰め替えて常備している、と詳細を書く。

 もし料理レシピに「ソース大さじ2」などと書かれていようものなら、「適当なこと抜かしやがって、どのソースかわからんやんけ!」と途方にくれてしまう、というするどいコメントも付けた。

 そのソースは、神戸・長田の商店街にある「地ソース専門店」で全て揃うから、うまいお好み焼き、焼きそば、串カツを食べたかったら通信販売で買うべし! なんなら買って送ってあげる、と書いた。

 わたしはSNSでそれを見て、「あっ、その地ソース専門店は[ユリヤ]だな」と思い出し、さっそく緊急事態宣言の中、新しいマスクをかけてJR神戸線と神戸市営地下鉄を乗り継いで長田まで取材に行った。
さっそく緊急事態宣言の中、新しいマスクをかけてJR神戸線と神戸市営地下鉄を乗り継いで長田まで取材に行った

 それをSNSのことと地ソース専門店のことを引っかけて、新聞の連載に書いた。
 タイトルは「地ソース染みる、外出自粛」。大受けだった。

 ステイホーム中であっても、リアルな街ネタとの関連性つまり「交通」は、楽天やAmazonよりもずっと強い。そしてコロナ禍の非常事態は、焼きそばソースにしてもそれぞれに違う食があり、それを大切にしている人が多いことを浮き彫りにする。
焼きそばソースにしてもそれぞれに違う食があり、それを大切にしている人が多いことを浮き彫りにする

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