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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第27回 猫は昼行性でも夜行性でもありません

 かつて私は、猫をはじめとするネコ科の動物はすべて夜行性だと思っていた。明るいうち、野良猫は屋根の上などでまどろんでいるが、夜になると目をランランと輝かせながらパトロールを始め、ゴミ箱を漁る。動物園でもサファリパークでも、ネコ科の猛獣たちは欠伸をするばかりで、給餌時以外に動き回る様子は見られない。「習性ですからご容赦ください」的な看板もよく見かける。そんなすり込みもあり、ネコ科=夜行性だと思い込んでいたのだ。

 猫の語源は「寝子」という説もある。実際、アンドレとモックも昼間は静かにしていることが多いが、熟睡しているというよりは目をつぶって体を休めている感じだ。それが証拠に私や息子の気配を感じると目を開けるし、苦手なインターホンの音が聞こえると瞬時に飛び起きて、冷蔵庫の上や家具の下、アンドレとモックそれぞれが安全と信じている場所にすばやく身を隠す。家猫がしっかり睡眠を取るのはむしろ夜間だということを、共に暮らして初めて知った。

 猫の生活は規則正しい。特にわが家のように給餌時間を決めている家の猫はその傾向は顕著だ。アンドレとモックを例にとると、朝一番のフードがフィーダーから出る7時前になると機械の近くに陣取る。2回目の正午、3回目の18時、4回目の24時も然り。腹時計の正確さには驚かされる。

 食後は運動。腹ごなしでもしているつもりなのか、部屋の端から端まで全速力で駆けたり、キャットタワーに駆け上ったり、互いを追い掛け回したり。猫には瞬発力はあるが、持続力はないので、5~10分前後でアスレチックタイムは終了。毛づくろいをしたり、ぼーっと外を眺めたり、そうこうするうちウトウトし始める。

 便意を催した時も走り回ることがあるが、それ以外で最も活発に動き回るタイミングは明け方と夕方だ。1日2回訪れる薄明かり時にまどろんでいることはまれで、大運動会に発展することもあるが、そうでなくとも歩き回ったり、じゃれあったり、家具に上ったり降りたり。なんだかソワソワと動いていることが多い。朝と夕は、野生においては餌となる小鳥や小動物が動き回る時間帯だからで、このタイミングにそういった本能的な動きをする動物は薄明薄暮性(はくめいはくぼせい)に分類される。身近な存在では犬もウサギも薄明薄暮性だ。

 野良猫は少し事情が異なる。夜目が利くこともあり、食糧漁りを危険度が低い夜に行うのはいわば生活の知恵だ。ちなみに、同じネコ科でも、トラやヒョウ、ジャガーは夜行性。チーターは昼行性で、ライオンは必要に応じて昼夜どちらでも狩りを行う。足が速いといった身体的特徴、集団で狩りを行う生活スタイルなどで行動パターンは異なる。ネコ科だから、とひとくくりにはできないのである。


 そろそろベッドに入ろうかというタイミングで、アンドレとモックが大運動会を始める日がたまにある。これは昼間の運動量が足りていない証拠。体力があり余って、無性に体を動かしたくなっているわけだから、飼い主はその面倒を見てやらねばならない。昼間一緒に遊んでやり、適度に体力を使わせると夜間は静かに熟睡してくれる。人間の子供と変わりない。

 ところが、そんな規則正しい生活スタイルを時に人間が乱してしまうこともある。先日のことだ。三日三晩不眠不休で仕事ができた若かりし頃と違い、日付が変わる頃には瞼が重くなる近年は完徹仕事を極力避けるようにしてきたが、どうしても突貫仕上げしなければならない案件が舞い込んだ。熱いコーヒーを飲む、スナック菓子をポリポリかじるなど、何とか眠気と戦いながら原稿を書いていたのだが、アンドレは困惑しきっていた。

 というのも、アンドレお気に入り寝場所は私の仕事用椅子だからだ。いつもなら、夜半前にはお気に入りの椅子を明け渡してもらえるのに、その日は待っても待っても私が居座っている。資料探しなどで席を外した瞬間「ようやく空いた!」と大好きなふかふかクッションに身を埋めるものの、すぐに戻ってくるものだから「え? アカンの?」と困惑の表情を浮かべつつ、ソファに移動。恨めしげに私を見つめる。その視線に気づきながらも、こちらも朝までには原稿を送らねばならない。見て見ぬふりをするしかなかった。

 翌朝、無事に原稿を送り終えた私は、昼からの取材に備えて仮眠。やっといつもの場所に陣取れたアンドレも同じように爆睡していたが、かえってそれが仇に。その日の夜はモックも巻き込んでの大運動会になった。中途半端にしか睡眠がとれなかった私は、その日こそ早く眠りたかったのに、嬉々として走り回るアンドレを制御することができず……。落ち着いて寝ることもできず。猫にとっても人にとっても規則正しい生活を送ることは大切だと、反省する好機になった。


 アンドレとモックも野良猫時代は夜行性だったのだろうが、人との暮らしが2年を超えた今では本来の習性をほぼ取り戻している。ただ忘れられない習慣もある。困ったことにアンドレはゴミ漁りの醍醐味がまだ忘れられないようで、生ゴミ用ボックスのふたが開いているとそこに頭を突っ込む癖がある。モックは水たまりを思い出すのか、フィルターを通した安心安全な水がファウンテンからいつでも飲めるにもかかわらず、流しの洗い桶にたまっている水を時折なめている。
“三つ子の魂百まで”もあるのかもと思いつつ、ゴミ箱のふたが開かないように、洗い桶には水を残さないように努めている。

 アンドレは人の食べ物にも興味津々。ヨーグルトやパン、クリームやあんといった甘いものを欲しがるところは先代猫のシャンコを思い出させる。モックはほぼ興味を示さないが、そんな彼女をも狂喜乱舞させるものがあって、夢中になる猫、続出中。テレビCMも頻繁に流されている液体おやつだ。
 定番のささみ味から魚介系、フルーツ味といったフレーバーの多彩さに加え、下部尿路配慮や水分補給などの機能性も併せ持つ大ヒット商品で、モックとアンドレも大好物。その商品がしまってある食品庫の扉を開けただけですっ飛んでくる。とは言え、のべつ幕なしに与えるのも経済的ではないので、たまのご褒美、または薬を混ぜて飲ませる時の秘密兵器にしている。

 もうすぐお正月。今年は娘と息子も家にいるということなので、それぞれの好物はすでに手配済み。家族水入らずでのんびり過ごしたいので、アンドレが好きな果物味と、モックが好きなツナ味の液体おやつも用意しようと考えている。
 年に一度の大盤振る舞い。アンドレとモックが喜ぶ姿が目に浮かぶ。

仕事用椅子の上に置かれたクッションがお気に入りのアンドレ。
仕事用椅子の上に置かれたクッションがお気に入りのアンドレ。

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