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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第21回 畑で過ごす、光を見る

 各地の本屋さんで過ごした写真展ツアーを無事に終えて、大阪に帰ってきた。

 7か月間の濃密な時間はホクホクのまま、一気に次のプロジェクトに持ち込んだ。大きな動きが終わるとだいたい高熱を出してしまうのだけれど、今回はそれもなく久しぶりにほっこりするでもなく、約1か月にわたる畑撮影ツアーがはじまった。

 いったい何事かというと、これは生鮮食品をはじめて扱う無印良品イオンモール堺北花田店(https://shop.muji.com/jp/sakai-kitahanada/)の取材班とともに、地元大阪の生産者の日常風景を撮影するというプロジェクト。「畑」を中心にお邪魔するのは夏に続いて今回が2回目。ほぼ毎週のように泉州というエリアに向かって移動と撮影を続けていた。

 泉州とは、大阪府の南西部の堺市・岸和田市・泉大津市など13市町からなる地域(国名は和泉)のこと。「泉州水なす」や「泉州たまねぎ」などは関西のスーパーでも手にできるのでよく知られている。でも、冬なので、どんな野菜に出会えるのかとお思いになるかもしれない。わたしも当初は「え!? 大阪の冬野菜ってなんだったっけ?」と疑問に思った。これまで意識したことがなかった。当然冬でも畑は盛り盛りと動いているのであった。
夕暮れのにんじん畑にて ©Ai Hirano
夕暮れのにんじん畑にて ©Ai Hirano

 にんじん畑の持ち主はまだ20代の生産者さんだった。師匠と仰ぐ方のもとで修業をしてから独立して、ようやく納得の行く畑が出来てきたそう。それでもまだまだ修業中と謙虚ににんじんを握りしめながら話される姿には、胸がいっぱいになった。だって、一面宝石が並んでいるのかと咄嗟に思ったほど、キラキラ光っていたのだもの。無駄なものが何一つないくらい手入れされ、凹凸のない安定した緑の道。
 ちょうど取材中にすれ違った別の生産者さんが、「ここはこのあたりでも一番綺麗な畑やで!」と言い残して行かれた。それほどに美しく整った畑でも、まだまだこれからという気持ちになれること、その探究心を持てることに、このお仕事の楽しさがあるのかもしれない。
生産者さんのご自宅台所にて ©Nobuhiro Matsueda
生産者さんのご自宅台所にて ©Nobuhiro Matsueda

 そして、他には屋外の畑ではキャベツ、にんじん、ブロッコリー、ビニールハウスではみつばやミニトマトなどの生産者に各地で出会うことができた。大阪みつばは「なにわ特産品」とも言われ、大阪は全国屈指の産地だったのだ。うどんや鍋にのせて食べるあれだ!

 とある生産者さんのご自宅にも上がらせて頂いた。大家族で鍋を食べている風景を撮影させて頂くことになって、朝からさまざまな野菜が台所に集まりはじめた。新鮮な野菜は水のはじき方が違う。光の反射力が違う。若い女の子のお肌のようだなぁと思いながら見つめてしまった。
取材班のみんなと、人待ち、風待ち、光待ち ©Sachiko Hattori
取材班のみんなと、人待ち、風待ち、光待ち ©Sachiko Hattori

 移動中や待ち時間はほとんど寝かせてもらっていた。たくさん食べて、たくさんケアしてもらいながらも、エネルギーを使い果たしていたのだろう。しかし、少し寝ればすぐに回復した。取材班のみんなもクタクタだっただろうけれど、撮って、取材して、はいサヨナラではなく、畑帰りには毎回どこかの喫茶店に寄っては、見たもの聞いたものを共有し合った。わたしはその時間が大好きだった。

 そんな中、取材班の一番若い22歳さんがある時ポツリと言った。「わたしたちがこんな風に少しだけ行っただけで、人に伝えていいのだろうか」という疑問だった。とても分かる気持ちがした。でも、「あぁ美しいな、素敵だな、って思うことにはわたしたちが生きてきた数十年間のいろんなものが詰まっているのだから、ほんの一瞬でもわたしたちが繋げていけることってあるんじゃないかな」と思ったので、そうつぶやいておいた。
 すると、さっきまでの霧が晴れたように彼女の顔がパァっと輝いたように感じた。またここでも、反射する光を見たようだった。


 2018年の大阪にはさまざまな自然災害が押し寄せた。6月の地震からはじまり7月の豪雨、そして9月の台風。特に泉州エリアも直撃した台風21号では、ビニールハウスをすべて飛ばされてしまった場所もあると聞いていた。まだ復旧できていなかったり、いままさにハウスを再建していたりという風景も今回の取材ツアーで目の当たりにした。心配だった。

 だけど、なぜだろう。わたしたちが見ていく風景は、思っていたより明るかった。もちろん、少しだけ時間が経ったということもあるだろうけれど、自然を相手にしている人々の力強さもあるだろうし、もう一度生まれて来た野菜たちの力強さもあるだろう。
 そして、気づいたのだけれど、ものすごくたくさんの人達が力を合わせて大きな力にしているということだった。隣の畑も、その隣の畑も、みんながちょくちょく気にしている。いろんな人に見られている畑は本当に美しい。

 畑の取材ツアーは、こうして一区切りした。これから先は、小さな映画を作るように写真と言葉を起こして、最終的には店内での展示を目指していく。
 たくさんの野菜を頂いて、たくさん食べさせてもらったおかげさまで、すこぶる元気だし、もちろん高熱も出ていない。畑に行けて、本当に良かった。このままもう少しここでの光を見ていたい。

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