Interview

非日常ではない「日常のなかの幸せ」を
暮らしから見つめ直す「住ムフムラボ」

2013年4月にオープンした「住ムフムラボ(SUMUFUMULAB)」は、近くリニューアルを迎える予定です。ハウスメーカーが運営する展示場という枠を超え、“ラボ=研究施設”という場に込められた思いとその役割は何か。リニューアルを迎える今、積水ハウス 住生活研究所長である河崎由美子が、これまでのラボの足跡、そして今後の展望について語りました。

訪れてくださった研究メンバーこそが、財産。

ー 「住ムフムラボ」はどのような場所なのでしょうか? 住宅展示場のように「家を売る場」ではないのでしょうか。

河崎所長

河崎所長

はい、「住ムフムラボ」では、積水ハウスの家を積極的にPRするようなことはしていません。というよりも、売ることができないと思います。

ー どういうことでしょうか?

河崎所長

河崎所長

「住ムフムラボ」を運営しているのは、積水ハウス 住生活研究所のメンバーです。つまりは住まいの研究員。営業のような業務の経験はなく、照明や収納など、自分の専門分野をずっと研究している人たちなんです。なので、営業トークは苦手だと思います(笑)。

ー 家を売るためのパンフレットもないですね。

河崎所長

河崎所長

少し前までは誰もが「将来は念願のマイホームを建てる」といった価値観が根強くありましたよね。けれど、いまやライフスタイルは多様化し、若い方の中にはシェアハウスさえ一般化しつつあります。

ー マイホームを買う、という価値観だけではない時代になりました。

河崎所長

河崎所長

はい。「住ムフムラボ」は、さまざまな暮らしのスタイルをもつ方が訪れ、暮らしに関する知識や気づきが得られる場を目指しています。
「こんな家があるよ」と積極的にPRするのではなく、それぞれの暮らしの価値観の延長線に「そうなんだ!」と納得してもらえることを心がけてきました。なので、「家を買うぞ」といったような心構えをもたず、ふらっと訪れていただきたいんです。

住ムフムラボ

グランフロント大阪にあるオープンイノベーション施設「住ムフムラボ」。未来を見据えた暮らしの情報の受発信や、来館者と一緒に理想の住まいのカタチを共創する体験型施設です。

住ムフムラボ 住ムフムラボ

「家族」「防犯」「健康」など、住まいと暮らしにまつわる、さまざまな展示やクイズ、診断コンテンツ、書籍などをご用意しています。

ー しかし、積水ハウスは「家」を売るのが商売だと思います。こうした施設をつくる価値はどこにあるのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

じつは「住ムフムラボ」の構想段階では、耐震性能や構造といった家のハード部分を得意とする積水ハウスの強みを知ってもらおうという話があったんです。

ー それは、ずいぶんと営業的ですね(笑)。

河崎所長

河崎所長

けれど、このグランフロント大阪の「ナレッジキャピタル(知的創造拠点)」内に場をもつということになり、「大阪の知の集積地」というコンセプトによって、私たちも考え方を柔軟にできた側面があります。つまり、「暮らしに興味をもってもらえる場」や「共創の場」というテーマをもとに運営をスタートしたわけです。

ー 具体的にどのような成果を得られたのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

「住ムフムラボ」を運営している社員は、普段は研究室にいる研究員です。彼らは、営業現場の意見を聞いたり、リサーチ会社の集めてきたデータを見たりすることでしか消費者と接点をもつ機会がなかったんですね。それがこの「住ムフムラボ」のおかげで、プロダクトを作る研究員が消費者の声をダイレクトに聞くことができるようになった。
たとえば「お子さんのいる母親の意見が聞きたい」となった時に、その場ですぐに答えてくださる方がいるわけです。

ー ユーザになりうる方の生の意見を素早く得られると。

河崎所長

河崎所長

来館者の方や研究メンバーとして登録してくださった方、またその方々の生の声が「住ムフムラボ」にとっての一番の財産と言えます。今までもこれからも「出会いの場としての研究施設」、その位置づけを大切にしていきたいと考えています。

住ムフムラボ

フラットな意見交換から生まれる新しいアイデア。

ー 家の購入を考えていない人が来てもいいのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

まさに、そういう方にこそ来て欲しいですね。積水ハウスの他の施設では、家が欲しいと考えている方の声を聞くことはできるんですね。
「住ムフムラボ」を訪れる人の多くは、家が欲しいとまだ考えていない方。問いかけながら、さまざまな住生活・住環境のお話ができます。そこから研究員が新たなアイデアを得ることができたり、またこちらからの提案もできるインプット・アウトプットの関係を築くことができます。

ー 簡単に「研究メンバー」になれると聞きました。メンバーになると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

現在、「住ムフムラボ」には約3万人の研究メンバーがいます。私たち積水ハウスの研究員だけでなく、訪れる人や研究メンバーにとっても同じようなインプット・アウトプットの経験になればと、さまざまなワークショップも開催してきました。

住ムフムラボ

過去に開催されたワークショップの例
・介護ロボットのある未来の暮らしを考える(介護ロボット体験)
・キッチンとテーブルの配膳動線評価
・IoTで変わる!これからの健康な暮らしとは
・手軽にできる!おうち運動を体験しよう!
等々

ー リニューアル後も、イベントを続けるのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

リニューアル後は、これまで以上にイベントの開催に力を入れたいと考えています。住まいに関する有識者はもちろんですが、たとえばYouTuber(ユーチューバー)の方に登壇してもらうような機会があっても面白いかもしれませんね。

ー YouTuberと住まいに、どのような関係があるのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

彼らは家で作業することが多いでしょうから、動画編集などに必要な場所や空間、設備の話を率直に聞いてみたいですよね。在宅勤務にシフトしつつあるwithコロナやafterコロナの時代におけるヒントがあるかもしれません。意外なところに、思ってもいなかった気づきや発見、学びが転がっているのだと思います。

住ムフムラボ

ー これまでの「住ムフムラボ」にはなかったような登壇者がラインナップされるわけですね。

河崎所長

河崎所長

旬の人や話題の人はもちろん、これまで住まいとは掛け合わされなかったような“未知の人”にも集まっていただき意見交換を行いたいですね。フラットに意見交換しながら、訪れる人も、私たち研究員も学べるようになれば素敵だなと考えています。意見をいただくメンバーと共に、知識をさらに深められる場所を目指しています。

「住ムフムラボ」から生まれる、新しい幸せとコミュニティ。

ー イベントを通じての学び以外には、「住ムフムラボ」にどのような機能があると思いますか?

河崎所長

河崎所長

コミュニティとしての機能があると思います。以前、研究メンバーの皆さんと健康についてのワークショップを行ったことがあります。顔を合わせながら、時には掲示板を用いながらオン・オフ関わらず意見交換を行うことで、終わった時には「打ち上げでもしようか!」というくらい仲良くなったんですね。それはもう立派な新しいコミュニティです。

住ムフムラボ

ー 新しいコミュニティには、何を期待していますか?

河崎所長

河崎所長

そもそもコミュニティというのは、当社が掲げる「住めば住むほど幸せ住まい」を構成するためのひとつのキーワードです。無論、「幸せ住まい」になるには、積水ハウスの住宅に住まないといけないということではありません。どこで、どんな家で暮らすことで家族とつながりがもてるのか、地域とのつながりがもてるのか。この「つながり」こそが幸せな暮らしのひとつの要素だと受け止めています。

ー 昨今、地域コミュニティの希薄化や家族のあり方も変容してきています。

河崎所長

河崎所長

そうですね。たとえば、私たちは「シェアハウス」もひとつのつながりであると考えています。若い世代の人たちにとっては、この「シェア」という感覚が当たり前になってきていて家をもつという意識もカジュアルな感じになってきていますよね。

住ムフムラボ

家族の暮らしを包括するフレキシブルな空間としてリビングを捉え、形式にとらわれない新しい住まい方を提案しています。

ー 「つながり」のあり方も多様化しているなかで、どのようにコミュニティを形成するのでしょうか?

河崎所長

河崎所長

さきに述べた通り、昨今では新型コロナウイルスによって社会の働き方も変わり、そこにいなくても良いことが多くなってきましたよね。都会の真ん中ではなくても、郊外の一軒家でも、住み替えを多くしてもいいわけです。年代はもちろん、社会のあり方によって人それぞれ異なる幸せな暮らし方や住まい方が、新たに生まれています。
そうしたなかで、「住ムフムラボ」がひとつのハブとなり、それぞれの考えや理想を共有しカタチにできるような空間になればと。それが、「住ムフムラボ」が提供できるコミュニティなのだろうと思っています。

安心・安全のその先。私らしい幸せとスタイル。

ー 積水ハウスが、家における「幸せ」を研究し始めたのはいつからですか?

河崎所長

河崎所長

創業当時からと言っても過言ではないと思います。じつは当社、創業して割と早くからユニバーサルデザインの研究を行ってきました。

ー 2020年に、創立60年を迎えることを考えると、先進的だったように感じます。

河崎所長

河崎所長

きっかけは、一人の大工さんがある工事現場で体の一部の運動機能に障がいを負ってしまったことでした。その方にとってみれば、水を出すための蛇口ひとつでも、手でひねるのではなく足で行うほうが効率的なんですね。人間工学的に「暮らしやすい家」というものは存在しますが、暮らし方や幸せの感じ方も、その人の状況や考え方によって千差万別であることに気づかされたわけです。

ー 幸せな住まいを考える土台になったわけですね。

河崎所長

河崎所長

はい。その後、障がいをもつ人にとって、いかに今の家が不便なのか。そういったデータを長年蓄積し研究を重ねてきました。こうした情報は、企業機密としてクローズドなものでしたが、「会社のビジョンとして「わが家」を世界一 幸せな場所にする」と宣言した当社ですから、現在ではすべてオープンにしています。業界全体で幸せな暮らしをつくりあげていきましょう、と考えています。

ー 研究の成果の恩恵を受けられるのは、いち消費者として嬉しい限りです。

河崎所長

河崎所長

ただし、課題もあります。こうした効率や機能というのは、まるでヒエラルキーをもった三角形のように集約され、画一的な価値としてみなされてしまいます。そこに、私らしさ、私の幸せ、私のスタイルを選択・提案していけるようにすることがハウスメーカーに求められることのひとつではないでしょうか。

住ムフムラボ

ー 具体的には、どのようなアプローチが可能でしょうか。

河崎所長

河崎所長

たとえば一体型のキッチンではなく、2列型にすることで家族全員が自然とキッチンに立つようになるんです。「きれいに洗える」「効率的に収納できる」といった機能や性能の価値も大切ですが、その先にあるそれぞれの暮らしやスタイルに合わせるための工夫が大切です。こういった無形価値や幸せ価値の提案を通じて、わが家を幸せな場にしていくのが私たちのミッションです。

住ムフムラボ

総合住宅研究所の研究風景(調理動線実験の様子)

住ムフムラボ

料理をする人の動きをモーションキャプチャーを使って細かく解析。その結果、複数の作業台があり、シンクとコンロの台を分けた「セパレートキッチン」が、作業効率や機能性に優れていることがわかりました。

暮らしや生き方、幸せのヒントに出会う。

ー 「住ムフムラボ」には、さまざまな展示があります。どのような目的がありますか?

河崎所長

河崎所長

展示では、研究によって蓄積してきたデータや、研究メンバーの声から生まれた製品、アイデアを集結させています。
具体的には、「リビング、ダイニングでのお勉強はマルかバツか?」といった質問に、皆さんはどのように答えますか?

ー 勉強部屋があった方が集中できるのかな、と思いますが……。

河崎所長

河崎所長

私たちのデータによると、小学生の7割がリビング・ダイニングで勉強していて、意外にも高校生の4人に1人がリビングを勉強する場所として使っています。
子どもたちは、発達段階によって勉強する場所を使い分けていくわけですが、勉強部屋以外にも「学ぶ場」をもっているわけですね。こうした研究データをもとに、家族の居どころの中に、どのように子どもの学びの場をつくるかというヒントがあると考えています。展示ではこうしたデータや、住まいへのアイデアを来館者にオープンにしています。

ー リニューアルによって展示は変わりますか?

河崎所長

河崎所長

展示については、これまでと変わりません。「かぞくのカタチ」「いごこちのカタチ」「いきかたのカタチ」、この3つのカテゴリーで、全部で12テーマの展示を行っています。また、ブックカフェとしても「住ムフムラボ」に気軽に訪れていただくきっかけになるかと思います。

住ムフムラボ

住まいや暮らしに関する書籍、雑誌を 3000冊以上ご用意しています。 好きな飲み物を飲みながら理想の住まいのイメージを膨らませてみませんか?

ー 一般的な雑誌から専門書まで、幅広く置かれていますね。

河崎所長

河崎所長

すでに休刊してしまった雑誌のバックナンバーなどもあります。たとえば、家族のことを考える人に向けて『孫の力』(木楽舍)という雑誌を置いています。この本も2016年に休刊してしまいましたが、「孫に遺す」という特集テーマでは、教育資金の贈与に踏み込んでいます。

住ムフムラボ

ー 普段は気にかける余裕がなくても、生活に重要な情報ですね。

河崎所長

河崎所長

いますぐに必要な情報でなくとも、ライフスタイルの先を見据えて知っておくとよい情報に出会えると思います。介護が必要になってから孫との暮らしが始まるのか、元気で動けるうちに孫と共同生活をしているのか。それによって、いざ介護が必要になった際の関係性が変わりますよね。こうした気づきに接していただけるように、こっそりおすすめの本を忍ばせています。

ー ライフスタイルが多様化するなかで何をもって「幸せ」とするのか、考える契機になりますね。

河崎所長

河崎所長

幸せは、大きく分けて2つのタイプがあると思います。旅行で得られるような「非日常の幸せ」。そして、毎日の暮らしの中にある「日常のなかの幸せ」。
私は研究者として後者の「幸せ」に興味があり、暮らしを支えてくれる「家」が大好きなんですよ。「住ムフムラボ」では、こうした日常の幸せを、自分らしい暮らしのなかにじっくりと育んでいけるような場を目指しています。ヒントがここにあるはずです。私たち研究員ももちろん、来館者の方や研究メンバーのみなさんとともに共創するなかで学んでいきたいですね。気軽にお越しいただき、私たちの考えに共感してくださる方は、ぜひ研究メンバーの門を叩いてみてください。

住ムフムラボ
  • 河崎所長

    河崎 由美子

    住生活研究所長

    1987年積水ハウス入社。高校入学までの12年間を海外で過ごした経験や子育て経験などを生かし、総合住宅研究所でキッズデザイン、ペット共生、収納、食空間など、日々の生活に密着した分野の研究開発全般に携わる。2018年8月から現職。一級建築士。

    1987年積水ハウス入社。高校入学までの12年間を海外で過ごした経験や子育て経験などを生かし、総合住宅研究所でキッズデザイン、ペット共生、収納、食空間など、日々の生活に密着した分野の研究開発全般に携わる。2018年8月から現職。一級建築士。

Sumufumu lab
Citizen Science

ともに考え、
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「住ムフムラボ」では、研究メンバー制度をご用意しています。
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    水曜日・年末年始
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