Interview

「幸せ」を作るキッチンって? 住生活研究所の若手研究員に聞いてみた。

住まい、生活に欠かせない場所のひとつ、キッチン。たとえば、どんな調理器具がオススメだとか、さまざまなレシピの情報はたくさんあふれていますが、そもそもキッチンの家の中での役割や、どうしたらもっと機能的に使うことができるのかなど「幸せ住まい」の研究をしているのが積水ハウスの「住生活研究所」です。今回、住生活研究所で働く若手研究員の山﨑美波さんに研究所での日々と、今の時代の豊かなキッチンのあり方とは何か、話を聞きました。

積水ハウス 住生活研究所研究員 山﨑美波さん


「幸せ」を研究する日本初の研究所

ー 住生活研究所は、「幸せ」を研究する日本初の研究所として2018年に発足したと聞きました。

山﨑さん

山﨑さん

そうなんです。暮らしにおける「幸せ」のさらなる追求を…と言われてもなかなか想像できないかと思いますけど、たとえば、家族が幸せに食事ができる食空間を考えたりだとか、質のいい睡眠を実現するための寝室ってどんな空間だろう、など住生活にまつわるいろいろな研究をしています。

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ー 山﨑さんは大学時代から住生活研究所を志望されていたのでしょうか。

山﨑さん

山﨑さん

いえ、まだ私の学生時代には、住生活研究所はなくて、前身となる総合住宅研究所がありました。そのことを知ったのも積水ハウスへインターンで伺った時のことなんです。

ー学生時代はどういったことを学んでいましたか。

山﨑さん

山﨑さん

私は、ビルや橋といった大きな建物より住宅の方に興味があって、大阪市立大学生活科学部の居住環境学科へ入学しました。居住環境を専門にするという全国的にも珍しい学科ですね。
学生時代に積水ハウスでインターンをした際に、住宅設計に関する課題が与えられて、学校では学べないような住宅設計のリアルな規模感や詳細なことを学ぶことができました。その時、私はやっぱり人の暮らしの風景を想像したりすることが好きなんだとあらためて自覚しました。その時のご縁で声をかけていただき、積水ハウスに入社しました。

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ー住生活研究所では、どのように研究を進めていますか。

山﨑さん

山﨑さん

まず、日本人の住生活について実態を把握するために基礎データを集めるリサーチの過程があります。たとえば、「生活定点調査」というリサーチでは、現状の実態と経年変化を定量的に把握する目的で、食、睡眠、衣家事、収納、育児、余暇など13テーマを定点的に実施しています。
それ以外にも、時代のニーズに合わせたテーマで意識調査なども行っていますよ。
リサーチのやり方としては、独自の割付方法でアンケートをとって、テーマによっては訪問調査やオンライン調査という形でさらに具体的にお話を伺ったり、実際にご自宅を見せていただいたりということをしています。

ー独自の割付方法というのは?

山﨑さん

山﨑さん

家族形態別に末子年齢まで細かく区切ってアンケートをとっています。つまり、一番下に小学生未満の子どもがいるご家庭なのか、中学生の子どもなのか、夫婦と子ども一人といった分け方だけでは見えてこないところまで細かく分析しています。

ー具体的なアンケートの内容と分析結果について教えていただけますか。

山﨑さん

山﨑さん

さまざまなアンケートがありますが、少し変わっている調査で言うと、「どこも調査していないけど、みんなどうしてるの?」といったテーマを掘り下げる小さな暮らしアンケートも実施しています。
たとえば、ポリ袋についてのアンケートでは、ご自宅にどれくらいの数があって、どんな目的で使い、収納するための場所があるかといったことなどを聞きました。
アンケート結果を見ていくと、収納するための専用の場所を設けている方は少なく、ポリ袋を20枚、30枚と貯めているという方が意外に多くいました。
ポリ袋はゴミ袋として使う方が多いかと思いますが、ポリ袋を切り分けてビニール紐のような感じで工夫して使うと回答された方もいらして、新たな発見でしたね。

「ポリ袋の使い道」アンケートの一例。全体の95%の方がポリ袋を使用していると回答され、使い道はゴミの処理用だけでなく、ビニール紐に変化させて使ったり、収納に使用すると回答された方もいらっしゃいました。


山﨑さんのキッチン研究とは

ー今回の取材場所として、ライフスタイル型モデルハウス「みんなの暮らし 4Stories」をお借りしています。ここは、山﨑さんも関わる住生活研究所の研究成果が反映されているのだとか。

山﨑さん

山﨑さん

はい。今年オープンした「みんなの暮らし 4Stories」は、4つの家族像を名前、年齢、家族構成、職業、趣味、ライフスタイルまでを具体的に設定して、リアルな暮らしを演出した新しいモデルハウスです。

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2021年、京都府木津川市にある総合住宅研究所に併設する「Tomorrow's Life Museum 関西」内に、オープンした「みんなの暮らし 4 stories」。


山﨑さん

山﨑さん

そのうちの一つのモデルハウス「山本さんち。」では、定年退職したアクティブシニアの住まいを想定していて、たとえば、キッチン空間は「座って囲めるキッチン」を採用しました。

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コミュニケーションの取りやすい、人が集まりやすいキッチンとして、「座って囲めるキッチン」を研究中です。


ー座りながら使えるキッチンというのも珍しいですね。

山﨑さん

山﨑さん

実際にモデルハウスとしてつくったのは初めてです。このモデルハウスの設定としてはアクティブシニアの住まいですけど、コミュニケーションがとりやすいという点で、若い世帯の家庭にも普及していけたらと考えています。

ー座るキッチンならではのコミュニケーションのとりやすさってどういうことでしょう。

山﨑さん

山﨑さん

視線の高さが合うことが大きなポイントなんです。たとえ同じ空間だとしても、立って料理をしている人とダイニングテーブルに座って何か作業をしている人の間ではコミュニケーションに距離が生まれます。それよりも、お互いに座って視線の高さが合っている状況だと、人がその場に集まってきやすいことが実験を繰り返す中でわかりました。

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「座って囲めるキッチン」の実験風景


山﨑さん

山﨑さん

そもそも今は、リビングだけではなくて、キッチンダイニングを家族が集う場所、家族団らんの空間として提案しています。ご飯のおいしい匂いに人が集まりやすいといったわかりやすい話に加えて、料理をしている親のすぐ横で子どもが宿題をしたり、このコロナ禍の時代でいえば、在宅ワークをやりながら、ちょっとした隙間時間に夕食の下ごしらえをしたりといったことも考えられます。
人が集まるキッチンダイニング、と言葉で伝えるだけではなかなか実感が伴わないですから、「4Stories」で実際に体感していただけることになって、そこでのお客様のリアルな反応も今後の研究につながっていきそうです。

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ーちなみに、その実験というのはどのように行われているのでしょう。

山﨑さん

山﨑さん

座るキッチンのことでいえば、使いやすさを検証するために、コンロ、シンク、作業台の位置などさまざまなレイアウトの検証をしてみたり、さまざまな高さの模型を使いながら試行錯誤を繰り返しました。その後、3パターンくらいにまで絞ったところで、実際に調理をしてみたり、人の集まり具合や会話が弾んでいるかどうかといったことまで、動画記録もとりながら検証するといったことをやっています。

ーそうした検証の積み重ねがあって、座るキッチンの提案につながっているんですね。
その他では、どのようなプロジェクトを担当されていますか?

山﨑さん

山﨑さん

「おいしい365日」という、キッチン周りのさまざまな工夫やアイデアを提案する冊子を積水ハウスでつくっています。そのコンテンツを改訂するにあたって、住生活研究所の一員として撮影に立ち会ったり、文章を提案したりしました。
私自身、その仕事を通して食にまつわる知見をかなり増やすことができたと感じています。学生時代にも、キッチンのショールームを巡ってみたりしていましたけど、さまざまなメーカーが多くの種類を出していることくらいにしか気づけなくて、けど、それぞれのレイアウトに意味があり、収納場所にも理由があることなどが理解できるようになってきました。

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いつものおうちゴハンを、もっとおいしく豊かにする「おいしい365日」。ていねいな食を支えるための使い勝手の良い空間性、ストレスフリーな計画などに着目。多彩な工夫やアイデアを提案しています。


ー積水ハウスとしては、たとえばキッチンまわりでどのような提案がありますか。

山﨑さん

山﨑さん

今の私たちの暮らしは、キッチン一つとっても、家族によって空間の使い方は一定ではありませんよね。最近では、共働きで忙しいご家庭も増えていますので、買ってきたお惣菜などをチンして食べる「中食」といったことも活用してもよいと思います。デザインや機能性だけでなく、家族団らんで食べる時間や家族のつながりを大切にできるキッチンを提案していきたいですね。

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積水ハウスでは、「マイスタイルキッチン」、「カフェダイニング」、「アウターダイニング」、「床座ダイニング」、「まどべダイニング」など、さまざまな提案をしています。


コロナ禍で、台所を豊かにするアイデア

ー長引くコロナ禍の中、自炊する人が増えていると思います。台所を豊かにするちょっとしたアイデアがあれば教えてください。

山﨑さん

山﨑さん

キッチンが自分のお気に入りの空間となるよう、とにかくいろいろ試してみてください。お花や植物を飾ってみるのもいいし、かわいいキッチン小物を揃えるのでもいいと思います。形から入るというのは意外と大事なことなんです。ささやかなことですけど、ハーブを育てるのは見た目と実用性も兼ねていて、すごくオススメです。
住生活研究所としては、コロナ禍で在宅ワークの方が増えたことでどんな変化や問題が発生しているのかについても調査と検証を進めています。そのなかで提案できそうなことが出てくれば、その都度広くお伝えしていくつもりです。

ーちなみに山﨑さんは一人暮らしですか。

山﨑さん

山﨑さん

ちょうどこの秋から一人暮らしを始めるんです。自分がやってきた研究を活かせる機会なので、どんなキッチンにしようかと考えることが楽しすぎて、逆に大変(笑)。
私は、統一感のある見た目が好きなので調味料入れはおしゃれなもので揃えるつもりです。今はまだ実家暮らしなんですけど、実家のキッチンの収納も気になり始めて…。いらないものを捨てたり収納場所の整理などを進めていて、今では私よりも母が乗り気になってきました。実家のキッチンもどんどん改善しているところです。

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ー新しい家に住み替えなくても、ちょっとした工夫でキッチンの使い勝手も変わってきそうですね。最後に、これからの山﨑さんの目標を教えてください。

山﨑さん

山﨑さん

コロナ禍が収束した後の暮らしがどうなっていくのか。そこへのアプローチは必須だと思いますので、その調査と研究は引き続き進めていきたいです。研究者として学会で発表するといったこともしていきたいですが、やはり一番は、暮らしにおける「幸せ」をもっと研究して、たくさんの人にその「幸せ」感じでもらうことですね。

施設情報
Tomorrow's Life Museum 関西
京都府木津川市兜台6-6-4

家族の明日の暮らしをみんなで楽しみながら学べる体験ミュージアム。生涯にわたる「安全・安心・快適」な住まいのために、さまざまな疑問を、実際に見て、触って、楽しみながら体験・納得していただける住まいのテーマパークに、是非お越しください。

見学のお申し込みはこちら

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  • 山﨑美波

    山﨑美波

    住生活研究所

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