Interview

植物も動物も人間も。生物多様性を育む在来樹種の庭づくり。

大阪を代表する現代建築の梅田スカイビル、その足もとに都心部とは思えないほどの自然が広がっています。約8,000㎡の公開空地に積水ハウスが日本の原風景を再現した「新・里山」です。
まさに都心で自然に親しむことのできるこの緑地、実は、積水ハウスが進める「5本の樹」計画という取り組みに基づいた実践の場でもあります。
この「5本の樹」のことについて、積水ハウスでエクステリアデザイナーとして活躍され、現在は本社の環境推進部に所属する樹木医の佐藤勘才(かんさい)さんに新・里山を案内いただきながら話を伺いました。


豊かな生態系が育まれる「新・里山」

ー新・里山の中は木々が生い茂って、もはや森のようですね。

佐藤さん

佐藤さん

中へ入ると、途端に虫の音や鳥の声が聴こえてくるでしょう? 2006年の完成からもう15年、植物だけではなくて、これだけの生きものがこの場所で暮らしているということなんですよ。

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環境推進部に所属する庭木のプロフェッショナル佐藤さん。


ーため池があったり、田んぼがあったり、いろんな風景が見えてきますね。

佐藤さん

佐藤さん

整備された都市公園ではあまり使わない自然樹形の樹木を使って雑木林の雰囲気を出したり、常緑樹を中心にして鎮守の森のようにしたりと、エリアごとに植栽計画を変えています。樹木だけではなく、足もとに生えている笹にしても、完全に刈ってしまわずに意図的に少し残すことで、生きものが住める空間(ハビタット)をつくっているんです。

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笹は、完全に刈ってしまわずに意図的に少し残すことで、生きものが住める空間をつくっています。


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管理作業の中で場内から出た剪定した枝や小石を山積みにすることで、小さな生き物のすみかになります。様々な大きさの隙間があると多くの生きものが利用します。


ー管理の面でいえば、完全に刈ってしまうほうが楽ですよね。

佐藤さん

佐藤さん

はい、生きものへの配慮のひとつですね。また、人への配慮として目線の高さの植栽の枝葉は「透かし剪定」をして見通しが良くなる様にしています。
自然の生きものにとっても、人にとってもいいという環境を維持するために、管理作業は毎日行われています。人の手が入ることで自然が守られ、人はその恵みを享受することができるという、人と自然の共生関係が生まれるのが「里山」ですね。

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生きものたちが集まるビオトープ「里の奥池」。樹木だけでなく水辺をつくることで、より多様な生きものが生息できるようにしています。


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ビオトープでは、メダカやカエルを見かけることも。


ー新・里山ならではの工夫、いくつか教えてください。

佐藤さん

佐藤さん

たくさんあるのですが、たとえばバタフライガーデン。
「花と蝶の庭」と呼んでいるエリアは、園芸科のあった府立の高校が統廃合されるというので、そこで大切に育てられていた植栽(当時で40種、500株の草花)を譲り受けたものです。
蝶って、種ごとにその幼虫が葉っぱを食べる植物が決まっていて、蝶が花の蜜を吸いにくる植物(吸蜜植物)もわかっています。つまり、蝶の好む植物を選択して植栽することで、蝶が集まる庭をつくることができるんですね。

ー意図して蝶好みの環境をつくることができると。

佐藤さん

佐藤さん

はい。実際、このバタフライガーデンにはかなりの蝶が集まっていて、専門家の方や、もともとの園芸科の高校の先生にも継続して関わっていただき、どのような種類の蝶が集まっているかをモニタリングすることで、新・里山の管理にも活かしています。

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大阪府立園芸高等学校の中村和幸先生の指導の元、植栽されたバタフライガーデン。


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バタフライガーデンに訪れた、ナミアゲハ。


ー生きものの観察を通して、里山の状態を知ることもできるということですね。

佐藤さん

佐藤さん

ほかに新・里山の細かな話をすれば、ハナミズキとヤマボウシという似た木をそばに植えています。
ハナミズキは、一青窈さんの歌にもなっているので、名前を聞いたことがある人も多いと思います。きれいな花が咲いて、紅葉もするので人気の園芸種ですが、ウドンコ病にかかりやすい面もあって外来種なんですね。
それに対して、在来種のヤマボウシは花が同じようにきれいで、特徴的な赤い実もなります。ハナミズキと比較すれば管理もしやすい。こうしたことも実際に見ていただけるよう、新・里山を活用しています。

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ヤマボウシは、花や紅葉の美しさも楽しむことができる在来樹種です。


3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を

ー在来種、外来種というお話が出ましたが、積水ハウスでは、2001年から地域の気候風土に合った在来樹種を植えましょうという「5本の樹」計画が進められています。「在来樹種」を植える意味とは何でしょう。

佐藤さん

佐藤さん

第一は多くの生きものが利用できるという生物多様性への配慮です。
また、地域に根差している植物の方が元気に育つ、病虫害にかかりにくい、結果、お手入れが楽ということです。その様なお話をすると、ハナミズキを植えたいと言っていたお客様がヤマボウシに変えられたこともありました。
それでも、庭木のために改良されてきた園芸種や外来種というのは、見栄えがよくて流通量も多いですから、特に意識することなく園芸品種を選ばれるお客様も少なくないんですね。在来種の美しさや良さに気付いてもらえてないのかなと。ですので、私たちとしては積極的に在来種を選びましょうということでご提案しています。

ーすべてを在来種でまかなおうという排他的な話でもないんですね。

佐藤さん

佐藤さん

もちろんです。新・里山にも外来種は植わっていますので。
お客様のお庭でも同様です。積水ハウスのお客様には「5本の樹」のコンセプトをご説明して、在来種をおすすめしますが、お客様のご要望、街並みとの調和、デザインなどをエクステリアデザイナーや建築設計担当者が総合的に判断して、地域の生態系のバランスを損ねない範囲で外来種も効果的に取り入れてご提案をしています。私もこれまでに500棟ほど関わらせていただきました。


佐藤さんが植栽計画を手がけた邸宅。地域の気候風土と調和する植物をセレクトしています。


ー「5本の樹」計画は、「3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を」というコンセプトで進められています。「鳥のために」「蝶のために」と言われていることもユニークです。

佐藤さん

佐藤さん

先ほどの新・里山のバタフライガーデンの話にもつながることですが、植栽を考えることは、小さな生態系(エコシステム)を生み出すことだとも言えるんです。
自然にでき上がっている循環のシステムって本当にすごくて、植物、鳥、虫などがそれぞれ食べる食べられるの関係を結ぶことで、お互いに支えあっています。植物にしても、自分では動くことができないので、いろんな形で虫や鳥を誘い寄せたり、逆に虫や鳥を遠ざけたりもしているんですね。

ー植物が虫を遠ざけるというのは?

佐藤さん

佐藤さん

ヤマザクラなどのサクラの葉には「蜜腺」と呼ばれる蜜を分泌する器官があって、これを求めてアリが集まります。と同時に、そのアリによって木にとっての害虫、アブラムシなどを食べてもらうんです。

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サクラの葉の根元にある小さなコブが「蜜腺」。


ー木にアリが集まっていることにも理由があるんですね。

佐藤さん

佐藤さん

はい、植物のとてもしたたかな生存戦略のひとつですね。虫がいることでそれをエサにする鳥が寄ってくることもあります。この自然の循環をうまく使えば、管理するのも楽になりますよということはお伝えしたいことのひとつです。虫が出た! いそいで駆除を…というのではなく。

シジュウカラのために設置された巣箱。穴の大きさはシジュウカラが入りやすい大きさにしてある。


ーそのためにはある程度の知識も必要になりそうです。

佐藤さん

佐藤さん

積水ハウスでは「庭木セレクトブック」という冊子をつくって、在来種を中心に庭木を紹介しています。この冊子が画期的なのは、植物の特徴や鑑賞ポイントだけではなく、この庭木を植えることで集まることが予想される鳥や蝶についても記されています。
「シジュウカラが寄ってくるようにこの木を選ぼう」といった形で、生きものからの逆引きができる構成なんです。

ー市販の図鑑でも見たことのないような編集方針ですね。

佐藤さん

佐藤さん

はい、生きものや植栽が好きなお客様には特に喜ばれます。そのようなお客様ですと、お渡ししたセレクトブックに打合せ前から付箋をたくさん貼っておられて、植栽の話だけでその日の打合せが終わってしまった方もいました(笑)。
ただ、たくさん掲載されているので選びきれないという方も多いですし、植栽のバランスや後々の管理のことも考えておかなければいけないので、ご提案する際には、お客様とコミュニケーションをとった上で、お客様ごとにオリジナルの「植栽提案シート」を作成してお渡ししています。お引き渡し時には水やりや剪定の頻度など、管理方法をまとめた「植栽メンテナンスシート」も作成してお渡ししています。

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各地域において植栽にふさわしい樹木約600種を掲載した「庭木セレクトブック」。


ひとつひとつの庭やベランダガーデンがエコロジカルネットワークの一部に

ー「3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を」というコンセプトは、積水ハウスという枠を超えて、誰にでも関係のあることですよね。

佐藤さん

佐藤さん

もちろん、そのとおりです。新・里山にしても、この中でひとつの生態系が生まれてはいますが、俯瞰していえば地域の中のひとつの点という見方もできます。
新・里山の周りにある公園や緑地などの場所を転々として、生きものたちは暮らしています。その意味では、みなさんのご家庭の庭やベランダガーデンというのもひとつの点で、それが線になり面となって、地域の生きもの達が快適に暮らせる場所が増えていくと考えてください。

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無農薬でお米を育てている田んぼ。近隣の幼稚園児が散歩にきたり、近隣の小学校と連携して田植えから脱穀までを行う農作業体験なども行っています。


ーささやかなベランダだったとしても、地域の緑につながっていく可能性を秘めてるんですね。ちなみに、佐藤さんオススメの植物って何でしょう。

佐藤さん

佐藤さん

落葉樹でしたらエゴノキやネムノキなどは比較的暑さに強く、葉焼けしにくいので良いと思います。常緑樹でしたらシャリンバイ、トベラなども丈夫でおすすめです。これらは全て在来種、「5本の樹」です。ベランダでも育てられると思いますよ。
「5本の樹」は庭木を5本植えなければならないということではなく、1本からでも始められます。

ーそもそも佐藤さんはどうして今の仕事を選ばれたのですか。

佐藤さん

佐藤さん

子供のころ夏休みに行っていた母方の実家が田舎で。そこで里山の自然に触れ、祖父や叔父に自然や生きものの素晴らしさを教えてもらったことが原点です。小学校の担任の先生の影響で、環境問題にも興味があり、大学は環境系の学部に進学しました。
大学の研究室では自然再生について研究し、造園設計(ランドスケープデザイン)を仕事にしたいと思ったことがきっかけです。

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佐藤さんの母方の実家・群馬県高山村の里山風景。


ー樹木医の資格というのも簡単に取得できるわけではないですよね。

佐藤さん

佐藤さん

はい、合格率は2割程度で年間100人ほどしか合格できない、とても狭き門です。私は3回目でようやく合格できました。樹木医の資格を持っている優秀な先輩社員への憧れと、お客様により良いご提案をしたくて樹木医を目指しました。積水ハウスグループには、約40人ほどの樹木医がいます。一社グループ内でこれだけの樹木医がいる会社はないと思います。


ー佐藤さんはプライベートではどのように植物と関わっていますか。

佐藤さん

佐藤さん

最近はあまり行けていませんが旅行や街あるきが好きで、国内外の庭園やその土地ならではの自然を見に行って学んでいます。
たとえば国内ですと青森の奥入瀬渓流や、京都の庭園などがおすすめです。

ーなるほど。では、ご自身の生活圏内での植物との関わりはいかがでしょうか。

佐藤さん

佐藤さん

コロナ禍で散歩をする機会が増えて、自分の周りの植物との関わりや気付きが増えたように思います。近所を散歩したり、買い物に行ったついでに見ることのできる植栽でも発見があるんです。
私の好きな在来種で、ハナイカダという、葉の真ん中でいかだに人が乗っているかのように花が咲く植物があって、家のすぐ近所を散歩している時にハナイカダを見つけて、すぐに写真を撮りました。こんな身近な場所にいたのかと(笑)。

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日本の在来樹種「花筏(ハナイカダ)」。葉の上に花を咲かせる品種で、まるでイカダに人が乗っているように見えることが名前の由来。皆さんもぜひ探してみてください。


ー若い世代の方は自然に触れ合う機会が以前より減っているという話もよく耳にしますが、そのような方に「5本の樹」などに興味を持ってもらうにはどうすれば良いと思いますか?

佐藤さん

佐藤さん

たとえば、家の近くの公園やショッピングモールなどにある木や咲いている花の名前がわかったら楽しくないですか?
神奈川で勤務している時に、若手社員の植栽に関する研修を担当していました。そこで心掛けていたのはあまり勉強っぽくしないでクイズ形式で楽しく覚えてもらうことです。先ほどのハナイカダの様な、面白い形やかわいい花を咲かせる植栽はたくさんあるので「推し」の植栽がきっと見つかると思います。また、サクラの蜜腺の話など知っていたら他の人にも話したくなる雑学エピソードを教えるとより印象に残ります。
そこから、今覚えたこの植物は、実は在来種で「5本の樹」なんだよ、と展開すると良いと思います。

ー佐藤さんが今後やってみたいこと、最後に教えてください。

佐藤さん

佐藤さん

入社してから約14年ほどエクステリアデザイナーを務めてきましたが、今年から積水ハウス全社のエクステリア事業や生物多様性、ESG、SDGsなどを推進していく部署に異動になりました。ですので社内、社外を問わず、もっと緑の魅力や大切さを多くの人へ伝えていきたいですね。私もまだまだ勉強不足なので、これからも幅広い知識や経験を積んで、人と生きものが共に心地よく暮らせる社会づくりに携わりたいと思います。

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施設情報

新梅田シティ 新・里山
大阪市北区大淀中1-1-88 新梅田シティ内
阪急中津駅より徒歩5分、JR大阪駅・阪急梅田駅より徒歩10分


詳しくはこちら

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積水ハウスは、2001年から「5本の樹」計画として、都市の住宅地に緑のネットワークを作り、生物多様性保全を推進してきました。
この度、20年間で、100万世帯(*¹)のお客様と共に取り組んできた「5本の樹」計画の成果を、琉球大学(*²)と共同検証し、世界初の都市の生物多様性の定量評価の仕組みを構築しました。
*¹ 2001年2月から2021年1月までの累積建築戸数1,001,977戸。
*² 琉球大学理学部久保田研究室との共同研究です。


  • 佐藤 勘才(かんさい)

    佐藤 勘才(かんさい)

    積水ハウス ESG経営推進本部 環境推進部 樹木医

    日本樹木医会、日本造園学会所属

    日本樹木医会、日本造園学会所属

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