Interview

家も人も、時とともに美しさを深めて 大草直子さん/スタイリングディレクター

スタイリスト、ファッションエディター、WEBマガジン「mi-mollet(ミモレ)」の編集長として活躍中(※)の大草直子さん。モデルのためにスタイリングしたファッションはもちろんのこと、大草さんご自身の私服の着こなしや、3人のお子さんを育てる母親としてのライフスタイルも、30~40代の女性たちの熱い注目を集めています。
2015年には、こだわりがたっぷり詰まったご自宅を新築。その素敵な住空間を見せていただきながら、自らの生き方や価値観を反映した家づくりのこと、家族と住まいの関係、ご自身の将来像などについてお聞きしました。
※「mi-mollet」編集長は2017年掲載時の肩書。2021年現在はコンセプトディレクターです。


最良の居心地を求めて色と素材感にこだわったリビング。

まず最初にご紹介いただいたのは、玄関から入ってすぐのリビングルーム。大きな吹き抜けがもたらす開放感と、色みを抑えたインテリアコーディネートが調和した、とっても居心地のよい空間です。多忙な毎日を送る大草さんにとって、この部屋でご主人やお子さんたちと過ごす時間は、かけがえのないものなのでしょう。


週末の夜などは、夕食を終えたお子さんたちはリビングへ移動し、ご夫妻はこのダイニングでお酒を楽しむのが定番。「L字型になっているので、のぞき込まない限り子どもたちの様子は見えませんが、気配はちゃんと感じられる。この距離感が気に入っています。」


“流行の服より、自分にとびきり似合う服を”“おしゃれは訓練。鍛えれば誰でも必ず上手くなる”“たくさん洋服を持つ必要はない。たとえばボトムは3着でOK”……。このように非常に明快なファッション・セオリーをお持ちで“理論派スタイリスト”と称されることも多い大草さんは、ご自身のファッションにまつわるモノの価値判断や“好き・嫌い”の線引きも極めて明確。この揺るぎのない判断力は、家づくりにおいても存分に発揮されています。新居のインテリアを考えるときに最も重視したのは色と素材感。リビングで特にこだわったのは床と壁だそうです。
「どちらも面積が大きく、部屋の印象を大きく左右しますし、家具と違って簡単に取り替えられませんからね。」
グレイッシュな色みとオークのナチュラルな質感がマッチした無垢のフローリングは、ハイセンスなテイストとカジュアル感のバランスが絶妙です。
「素材感って、見た目だけでなく感触もとても大切で、肌触りというのは感性を育む要因のひとつだと思っているんですね。そこで、素足で触れる床には“ツルツル・ひんやり”ではなく、ほんの少しザラッとしたものをセレクトしました。」
壁はちょっぴりグレイを含んだホワイトの塗料でペイント。
「実はこの壁、夫を中心に家族全員で塗ったんです。自ら手をかけることで、新居への愛着が一層深くなりました。」
こうした床や壁の選択には、以前のお住まいで日々感じていたことも反映されているようです。
「建売住宅ながら、天井が高くて光の差し込み方がきれいな、いい家だったんですよ。ところが、ある時期から床の色がどうしても気になってしまって……。すごく赤みの強いブラウンで、私の好きなソファーやファブリックの色みとまったく合っていないんです!! それに、そもそも私と“赤”との付き合い方は“服は無彩色でまとめて、口紅やネイルでちょっぴり赤をプラスする”というスタイルなので、赤みの強すぎる空間が居心地悪かったんでしょうね。もうひとつの悩みは、床のニスの剥がれや壁紙のヨレといった経年劣化。年を重ねるにつれて自分の家をどんどん好きになっていきたいのに、アラばかりどんどん目立ってくるなんて悲しいじゃないですか。ですから新居の床と壁は、年月が経つほど味わいの増していくものを慎重に吟味しました。」


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フローリングは個性的な色味やナチュラルな素材感に加え、幅の広さもおしゃれな雰囲気作りに一役買っています。


リビングとキッチンの間の壁には、ハンドメイド調のタイルを。「将来、ペレットストーブを置くことも考え、あらかじめタイルにしました。」


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ご家族全員がお気に入りのリビング。奥にキッチンとダイニングを設けたL字型LDKになっています。木の家をご希望の大草さんが選ばれたのはシャーウッド。「“とにかく仕事が忙しいので、細かいところはおまかせしたい”“建てたあともずっと相談にのってほしい”という希望があったので、最初からハウスメーカーにお願いしようと決めていました。何社かにプランを出していただいたところ、私の求めるテイストにいちばん近かったのが積水ハウスさんです。」


ファッションコーディネートの方程式はインテリアにも応用可能。

2階の天井から吊るされた長いカーテンの、風に揺れる様子や光のきらめきも、このリビングルームの大きな特色です。
「木の床と、少し硬質な壁から成るこの空間に、親しみやすさを生み出すには、布の柔らかさと透け感が必要だと考え、ザックリとしたリネン調の素材を選びました。緞帳のような遮光カーテンは、部屋の雰囲気を重たくしてしまうので最初から選択肢には入れていません。」
一方、センターテーブルとダイニングテーブルは、金属素材を使った天板がユニーク。ナチュラルな素材が中心の空間の中で異彩を放つ存在ですが、なぜかしっくり馴染んでいるところに、コーディネートの妙を感じます。
「当初はどちらも木のテーブルを想定していたのですが、それではちょっと木の分量が多すぎて“ほっこり”してしまうでしょ? だから“ハンサムな要素”を入れました。ファッションでいうなら、ふんわりとしたニットだけの組み合わせにちょっとゴツい腕時計を足してみる、そんなコーディネートと同じです。」


カーテンの面積がとても大きいのに軽やかな印象なのは、プリーツのボリュームを抑えているから。


ダイニングテーブルは、コンランショップの“ポンディシェリ・テーブル”。真鍮製の天板がとっても個性的です。


完成度60%のインテリアを楽しみながら育てるという方針。

その場にいた全員がカメラマンの背後に移動し、無人のリビングルームを撮影する様子を見ながら「この空間だけを見ていると、もしかしたら“少し何かが足りない”って感じる方もいるでしょうね」と大草さん。
「でも、ここに子どもが入り、夫と私が加わることで我が家らしくなる。そんな住まいにしたくて、色やテイストが突出していない、いわば無色透明な空間を目指しました。主役はあくまでも“人”。たとえば、ものすごく高価なソファーが鎮座して、空間全体のムードを支配しているような家は、私たちが望むものとは正反対なんですよね。
それから、家具や装飾といったインテリアについては“最初は60%程度の完成度にしておき、暮らしながら育てていく”というのが当初からの方針です。1年かけて、ようやく63%ぐらいまで育てました(笑)。いずれは階段の下にビンテージの棚を置いて子どもの絵や思い出の写真を飾りたいし、テラスは“アウトドアダイニング”のようにしたいし、庭には菜園だってつくりたい……。今は忙しくてなかなか手をつけられませんが、“どんな風にしようかな”と考えるだけでワクワクします。」


2階の廊下には、収納棚で挟まれた“窪み”が。「ここや1階の階段下は、あえて残した余白のような空間。どう使うか、どう飾るかは、今後ゆっくり楽しみながら考えます。」


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キッチンの背後の収納は全て扉付き。「家電や調理器具の中には、残念ながらあまりデザインが美しくないものもありますよね。そういうアイテムも全部扉の中に。閉めてしまえば、視覚的なストレスがありません。」


仕事モードの頭と心は帰宅と同時にすぐさまリセット。

広々としたスペース、グレイッシュなブルーの塗り壁、アロマキャンドルの心地よい香り……。大草さんが“家の顔”として、リビングと共に重きをおいたのが玄関です。


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凛とした雰囲気と安らぎが共存する、ちょっと不思議なムードの玄関スペース。


「毎日とにかく仕事が忙しく、一日じゅう頭をフル回転させていますし、なかには神経がピリピリするような仕事もあります。そんなビジネスモードの頭と心をリセットするために、絶対に欲しかった空間がこれなんです。イメージしたのは京都などにある老舗旅館。打ち水された石畳の路地を通って中に入ると、別世界に足を踏み入れたような気分になりますよね。あれと同じ感覚になるような玄関にしたいと考えました。狙っていた通り、すっきりとスイッチが切り替わります。リビングやその隣の子ども部屋をもっと広くするという選択肢もありましたが、この玄関にして正解でした。」


ブルーの塗り壁はご主人の手によるものです。「昔、ペンキ塗りのバイトをしていたんですって。プロの方に腕前をほめられていましたよ(笑)。」



家づくりも家族の暮らしも我が家は常に夫婦が優先。

2階の主寝室には、ご主人の提案でお風呂とパウダールームを併設。ご夫婦専用なので、お子さんたちは1階のユニットバスを使っています。
「初めは当然ながら、子どもたちから“ずるい、ずるい!”と言われましたが、“ここは私たち夫婦の家。自分専用のお風呂が欲しいなら、自分で家を建てるときに実現しなさい”と言い渡しました(笑)。“家族”に対する考え方や価値観は人それぞれだと思いますが、私の場合は“住まいも家族の暮らしも夫婦が中心。子どもによってコントロールされるものではない”というのが基本的な考え方です。家づくりの打ち合わせでも、よく“子どもはいずれ出て行ってしまうから、子ども部屋は必要最小限の広さで”と言っていました。この家は、子どもたちにとっては“仮のお家”。彼らはここを巣立って、自分自身の家庭をきちんとつくっていくべき存在なので、“ここが私の家なの~!!”なんていう風に、いつまでも居座られたら困ります(笑)。」


とはいえ、3人のお子さんがみなさん独立してしまわれたら、さぞかし寂しくなるでしょうね?
「もちろん寂しいと思いますよ。でも、そうなったら夫婦2人の、今とはまったく違う暮らしがあるのかもしれない。それこそ、海外で暮らす可能性だってあります。私、生活の環境が変わっていくことに、さほど抵抗がないんです。
今はとにかく、子どもたちには“大人は自由で楽しそう”と感じてほしい。明るい未来像が描きにくいこんな時代だからこそ、毎日楽しそうに生きている大人を見ながら育っていくことはとても大事だと思うんです。そういう意味で言うと、この家は“大人が楽しい家”って感じでしょうか(笑)?!」


グレーを基調とした寝室。床には毛足の長い、パールホワイトの絨毯が敷かれています。


壁に立てかけた大きな絵は、ロイズ・アンティークスで購入した無名の画家による1980年代の作品。「色合いが、私の好みにぴったりなので、迷わず買いました。」


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寝具類のカバーは1年を通してリネンがメイン。「冬はムートン、夏はレースをプラスします。インテリアを気軽にアレンジしたいなら、こういうカバー類の交換がおすすめです。」ファッションに例えると、この部屋のスタイリングはグレーのワンピース(寝具)をアクセサリーやスカーフ(枕カバーやクッションカバー)で自由に変えていくようなイメージだそうです。


おしゃれも仕事のキャリアも60歳でピークを迎える予定です。

ファッションやインテリアといったビジュアル面だけでなく、子育てや自身の生き方に関しても、明確な価値観や判断基準をお持ちの大草さん。かねてから「人生のピークは60歳」とおっしゃっているので、その真意をうかがいました。
「以前、高校生の娘にも話したんです。“美しさやキャリアのピークは、できるだけ後ろにもっていきなさい。ピークが早いと、それにしがみついて生きていかなければならないから。いちばん素敵な女性になる時期を、40歳ぐらいに設定しておくのがいいんじゃない?”って。私自身は、それを60歳にしたいと思ったんです。だから60歳のときに、いちばんおしゃれでいたい。そのために何十年も、毎日自分の服を選びながらおしゃれのトレーニングをしているんです。キャリアについても同じ。私は死ぬまで働くと決めていて、60歳になる頃に“そうか、私がやりたかったのはこの仕事なのか。これまでの仕事はそのための修行だったのね”と思えるところにたどり着いていたいんです。もしかしたらこの家も、60歳のときに“今のこの家が、いちばん自分らしい”と思うのかもしれませんね。」


寝室のテラスには、最近テーブル&チェアを設置。「夫と二人でお酒を飲んだり、お月見をしたり……と、楽しんでいます。」


  • 大草直子

    大草直子

    スタイリングディレクター

    1972年生まれ 東京都出身。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌の編集に携わった後、独立しファッション誌、新聞、カタログを中心にスタイリングをこなすかたわら、イベント出演や執筆業にも精力的に取り組む。WEBマガジン「mi-mollet」のコンセプトディレクター。新媒体「AMARC(amarclife.com)」を主宰。インスタグラム@naokookusaも人気。 近著に「飽きる勇気―好きな2割にフォーカスする生き方―(講談社)」がある。

    1972年生まれ 東京都出身。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌の編集に携わった後、独立しファッション誌、新聞、カタログを中心にスタイリングをこなすかたわら、イベント出演や執筆業にも精力的に取り組む。WEBマガジン「mi-mollet」のコンセプトディレクター。新媒体「AMARC(amarclife.com)」を主宰。インスタグラム@naokookusaも人気。 近著に「飽きる勇気―好きな2割にフォーカスする生き方―(講談社)」がある。

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